執筆者:硯田一弘(アディルザス代表取締役)
土曜日はCiudad del Este日本人会メンバーの御厚意で、Hernandariasにある世界最大のイタイプ水力発電ダムの見学会に行ってきました。
今までも何度も足を運んだことのあるイタイプダムですが、今回は発電所に勤務する方の御案内で、観光コースでは絶対に視られない内側も見せて頂くことになり、あらためてこの建造物の凄さを実感してきました。
因みに水力発電ダムの発電能力でのランキングは以下の通りです。
世界最大の能力と謳われる中国の三峡ダムは、実際には運転が安定しておらず、2021年には世界最高の出力をマークしたようですが、安定感という点では今でもイタイプが安定的に世界一の水力発電ダムの地位を維持しています。
https://www.afpbb.com/articles/-/3324478
https://www.weforum.org/agenda/2022/12/worlds-largest-hydroelectric-dams-renewable-energy/
このサイトの仕様比較からもわかる通り、パラグアイ・ブラジル国境に位置するイタイプダムと、ベネズエラのグリダムは、堰の延長距離が7㎞以上で、南米のダムの凄さが改めて実感できます。今回は堤防構造物の一番下の部分、川の水位(海抜92m)よりも50mほども低いかつての川底まで見せてもらいました。
ここから見上げる最上部は100m以上も上で、この建造物を1970年代に造った技術にも驚かされました。この空間、完全なSF映画の世界でした。
これまでもベネズエラのグリダム、アメリカのフーバーダム、同じパラグアイのヤシレタダムなど世界有数の水力発電ダムを見せて貰っていますが、今回のイタイプダム深層部ツアーは、これまでのどの体験よりも凄いものでした。
今日の言葉presaには、猛禽類が捉えた獲物という意味もありますが、正に素晴らしい経験の獲物を頂いた訪問でした。
今週も出張でアスンシオンに行ってきました。
今回は学術的な関係者との面談が多く、国立アスンシオン大学Universidad Nacional de Asuncion=UNAの工学部Facultad de Ingeniería Universidad Nacional de Asunción=FIUNAにも初めて足を踏み入れました。
この大学、総面積は300ヘクタールということで、日本最大の面積を持つ九州大学(246ヘクタール)よりも更に広い。
https://statresearch.jp/school/university/campusarea.html
昨秋次男の卒業式で訪れたカナダのブリティッシュコロンビア大学は400ヘクタールと更に大きいのですが、こうした数字は農学部等の中心キャンパス以外の敷地面積も含めるので、一概に比較できない、というのが正しい表現ですが、それにしても学生も学校内の移動だけで大変だろう、と同情してしまう大きさに驚きました。(我々はクルマで入ったので、そんなに歩いてないですが。)
国立アスンシオン大学の創設は1889年、東京大学が1877年、京都大学が1897年なのでアスンシオン大学もそれなりの歴史を持つことが判ります。
https://es.wikipedia.org/wiki/Universidad_Nacional_de_Asunci%C3%B3n
大学には15の学部があって45000人の学生が学んでいます。キャンパスもSan Lorenzoの本部の他に全国18ヵ所に色々な学部や施設が分散していて、その意味でも日本の旧帝大のような存在であることが理解できます。
パラグアイにはUNAの他にも7つの国立大学があり、全国各地の学力向上に資しています。今回、アスンシオンからの帰り道、新たに整備されたColonel Obiedoのバイパスを走っていたところ、平原の真ん中にタワークレーンが二本立っているのを見つけ、興味本位に近寄ってみました。
何かの工場でも作っているのかと思い、守衛さんに訊ねてみると、なんと国立Caaguazu大学=UNCAの医学部の新キャンパスの造成工事とのこと。
ブラジルと国境を接するエステ市エリアには、最近20以上の私立大学が出来ていて、その殆どが医学部を擁していて、ブラジルの学生達を惹きつけています。
というのも、学費も生活費も安く、しかもパラグアイの医学部を卒業すればブラジルの医師資格も得られる、ということで、医者の卵たちがパラグアイで学んでいるのです。
こうした動きを国立大学も取り入れよう、というのがこの大工事の背景にあるのでしょう。少し前は、エステ市周辺の住民は病気になったら国境を渡ってFoz do Iguacuの病院へ、というのが常識だったようですが、もう少しするとブラジルの患者さんがパラグアイに診療を受けに来る時代になるように感じられます。
全国紙abc colorに、中谷駐パラグアイ日本大使の談話が大きく取り上げられていましたのでご紹介します。
長い記事を要約すると、まずタイトルは「Embajadora de Japon en Paraguay: “El orden internacional libre y abierto se enfrenta a serios desafios”」(駐パ日本大使『自由で開かれた国際秩序は危機に晒されている』と語る)というもので、広島でご両親が原爆を体験された大使の原体験から、国際秩序の重要性を強調しています。
次に「Japon visne implementando proyectos de cooperacion en Paraguay, con el proposito de contribuir al desarollosustentable, economico y social del pais, desde 1958」とし、日本は1958年以降の長きに亘ってパラグアイの生活向上という大きな目的のために、多くの協力を行ってきており、南米では最も多くの協力隊員を派遣したことからも、両国の関係強化に一貫して務めてきたとしています。
パラグアイと日本の外交関係は100年を超えており、パラグアイでの日本人移民の歴史も今年で87年を迎えるなど、両国が如何に長い歴史の友好関係を維持してきたか、についても改めて読者に訴えられています。また、パラグアイが現在大きな経済発展を成し遂げ、特に建設分野では著しい成長を遂げていることにも言及され、もっと多くの日本企業がパラグアイ進出を検討するよう、引き続き周知を徹底するとも発言されています。
今回の記事は、23日にアスンシオンの大使公邸で開催される天皇誕生日祝賀イベントを前に、両国関係強化の重要性を内外に訴える目的で発せられたものです。重要な全国紙に対して情報を発信する意図を新聞社側も汲んで、ロシアのウクライナ侵攻で牛肉の主要な市場であったロシア向けの輸出が国際制裁措置で出来なくなったことや、中国政府が台湾との断交を迫っているという、日本ではあまり認識されていないパラグアイ固有の世界的な重要性についても注意を喚起する内容になっており、何度も読み返す価値のある内容になっています。
記事と言えばもうひとつ、日本からおよそ十年ぶりに進出を決めた企業となる萩原工業の新工場が間もなく稼働する見通しであるという記事もパラグアイ東部の地方紙であるLa Clabe紙に掲載されました。
https://www.laclave.com.py/2023/02/17/en-marzo-multinacional-japonesa-comenzara-operaciones-en-cde/
この会社はブルーシートを世界で初めて開発した企業であり、現在もアジアでは樹脂繊維織物製品における主導的地位を占める企業ですが、今般、拠点である岡山・第二拠点のインドネシアに次ぐ第三の生産拠点として成長する南米市場を視野にいれた投資を敢行し、3月から生産活動を開始する、という趣旨のニュースが流れています。世界市場での成長という明確な意図と目的を持ってパラグアイに進出する企業が今後も続くことを期待します。
過去にも何度かパラグアイのセメント事情についてご紹介したことがありますが、先週は昨年末に稼働開始したパラグアイ最大かつ最新のセメント会社CECONの社長と面談してきましたので、この新しい工場について改めてご紹介します。
工場が作られたのはアスンシオンのほぼ真北約400㎞のTres Cerros(三つの丘)というパラグアイ川畔の場所。(実際には道路がまっすぐ伸びている訳ではないので、クルマでは約600㎞の道のりを7時間かけて辿り着くブラジル国境エリア)上の写真では工場の向こうに3つの丘が並んでいる景色が確認できます。
パラグアイは地下資源の乏しい国と認知されていますが、カルシウム源である石灰石とマグネシウムを含む橄欖岩の鉱脈は存在しています。石灰石を焼成すると出来るのがセメントですが、焼成の為に必要な熱源をどうやって確保するか?が、セメント産業の悩みの種でもありました。パラグアイには国営のINCというセメント会社と民間資本のYguazu Cementの2社が急増し需要200万トンとも言われる国内市場への対応を行ってきましたが、どちらの会社も製造能力に見合った量を供給できず、常に輸入品に頼らざるを得ない状況が続いていました。
前カルテス政権時代2017年には、国道の舗装の3割をコンクリートで賄う様に、という趣旨の法律も成立したものの、2018年に現アブド政権となってからは、アブド大統領自身が関与するアスファルト輸入会社の業務支援の為か、コンクリート舗装法は施行されないままとなっていました。前大統領のカルテス氏は、非効率な経営の国営会社の再建を断念し、INCのセメント工場があるVallemi村の近くの石灰石鉱区を買い取り、自身の手でセメント工場の建設にとりかかり、昨年建設が完了して出荷が始まったのがCECON社という訳です。今回の面談はCECON社がセメント工場に先立って運営を開始したアスンシオン近郊のコンクリート工場で行われました。
この面談では、元INCで勤務し、道路のコンクリート化を提言したMendes社長から、新工場の設立経緯や設備能力などについて話を伺いましたが、その中で特にユニークであると感じたのは、セメント製造に欠かせない熱源の確保についてです。今までのパラグアイのセメント工場は、パラグアイ川上流のブラジル南マトグロッソ州から産出される石炭を燃料とする設計で運営されていましたが、CECON社ではメキシコ産の石油コークスを原料とし、将来的にはパラグアイで調達可能な木質エネルギーを総エネルギーの3割まで引き上げて活用するとのこと。
この工場設計を手掛けたのはデンマークに本拠地を置くFL Smidth社。筆者もペルーの燐鉱石開発の際に一緒に資源管理の検討を行った経験があり、最先端の技術を提供できるパートナーであり、その他にも有力なプラントメーカーや地元のゼネコンが関与している立派な設備です。最新の設計技術に基づいて完成した工場の視察にも招待されましたので、追って現地からのレポートもお届けしますが、ワクワクが止まらないパラグアイの開発計画、是非日本からも御自身の目で確かめに来てください。
ちなみにこれがINCが公表しているセメントの小売価格指標です。 以 上