執筆者:硯田一弘(アディルザス代表取締役)
パラグアイの人口が700万人、一方牛の頭数が人口の二倍の1400万頭であることはこれまでにも何度かお伝えしました。今日のニュースは、南米最大の牛肉輸入国であるチリにとって輸入量の53%を占めるパラグアイが最大の供給元であるというもの。
赤身たんぱく質の重要な供給拠点であることが強調されています。
一方、二番目の輸出先はロシアでしたが、3月のウクライナ侵攻後は国際的な制裁措置により輸出は停止されており、牛肉の荷動きは大きく変化しています。とは言え、輸出単価はキロ当たり5.25米ドルと、昨年同時期の価格よりも一割ほど上がっているので、畜肉産業にとってはまずまずの状況であるとのことです。
ところで、今週はインドネシアに行ってきました。ここで知った事実は、インドネシアがチョコレートの原料であるカカオの世界三位の大生産国であるということ。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/ranking/cacao.html
ベネズエラに駐在していた30年前は、世界最高品質のカカオ豆の産地ということで買付を担当していましたが、二回目の駐在となった2008年には会社が取り扱いをやめてしまったために、10年以上にわたってカカオの取引から離れていました。その間にインドネシアの生産量は大きく伸びて今や年産80万トン近くと、世界のチョコレートメーカーへの最大供給元の一つに成長していることを知りました。生産量だけでなく、品質においてもかつてはベースビーンということで、香りや味よりも量を増やすための増量材としての位置づけであったインドネシア産カカオですが、ジャカルタ市内には立派なショコラティエのお店があって、その店構えも味わいも素晴らしいことに驚きました。
https://www.facebook.com/therrchocolate
物価の比較的安いインドネシアですが、自動車等の富裕層向け商品の価格は高く、その意味で高級チョコレートも決して安価なものではありませんが、そもそも富裕層向けのビジネスが急拡大している様子にも驚きました。パラグアイでもパリの高級菓子店で修行して起業したケーキ屋さんがあって、上品な菓子を手軽な値段で提供してくれています。
日本円で一つ500円、インドネシアのお店では700円程度でしたから、この手の商品はパラグアイの方がお得な供給者と言えます。
今回は中東のドバイ(アラブ首長国連邦)を経由しての出張でしたが、ドバイの空港は巨大な高級百貨店というイメージで、富裕層向けビジネスが世界で大きく変わっていることを実感する旅でした。
今週はまたまた東の街Ciudad del Esteに出向きました。ここでの打ち合わせの為にブラジル・クリチバから出向いてくださった顧問を迎えにブラジル側の街Foz do Iguazuの空港からパラグアイに戻る車中でエリザベス女王御逝去の報をネットのニュースで知りました。エステ市での各種手続きや打合せを終えて、土曜日の早朝フライトでクリチバに戻られる顧問をお送りするためにFoz空港近くの宿で一泊しましたが、ここでテレビを観たら意外な事が判りました。
南米はブラジル以外は公用語がスペイン語で、スペインには王室が現存することから、英王室の呼称はスペイン語で表現されます。御逝去されたエリザベス女王はイサベル女王、新たに即位されたCharles新国王はCarlos=カルロスで、Williamウィリアム皇太子はGuillermo(ギジェルモ)というスペイン語流の呼び方で表記されます。
ブラジルでテレビニュースを視て気付いたのは、王室が1910年になくなったポルトガル語圏では、英王室の呼称も英語式の表記になっているということ。
スペイン王室は国王自身が色々なスキャンダルを撒き散らして権威が失墜しているとも言われますが、カルロス三世として勲位されるチャールズ新国王の下で、皇室の世界観や欧州での関係性がどのようになってゆくのか?NetflixのThe Crownの続きも含めて興味深く見て行きたいですね。 https://www.netflix.com/py/title/80025678
ちなみに王冠を意味する英語のCrown、スペイン語ではCorona=コロナです。欧米で新型コロナウィルスがCOVID-19と呼ばれるのは、王冠ウィルスという呼び方を避けるためなのかも知れません。
燃料価格の高騰が続いていることは世界的な動きですが、今週パラグアイでは物流に関わる運送業者が抗議行動として道路封鎖を行っていました。こうした動きに対処すべく、政府は燃料価格の見直しを検討、国営石油会社PetroParの小売価格を下方修正するよう指示が出る模様ですが、未だハッキリしていないようです。
Rebaja de combustibles está en la nebulosa y Petropar la desconoce(燃料価格の下方修正は霧の中、当事者のPetroParには知らされず)
日本のガソリン・ディーゼル価格も最近少し落ち着きを見せているようですが、運送コストに直結する燃料価格は常に国民=有権者の注目の的であり、パラグアイの政治家にとっても重要な指標となっている模様です。
少し古いデータですが、南米各国のディーゼル価格を比較した表をみつけました。
先週ブラジルに行って感じたのは、弱いブラジルレアルと強いパラグアイグアラニという為替レートの差によってブラジルの方が燃料代が安いということでした。これは、6月上旬にクリチバにクルマで出向いた時には感じなかったことで、最近の強いドルに各国の通貨がどのように反応しているか、ということであり、国と国とが地続きとなっているからこそ感じられる感覚、島国日本で最も判り難い指標と言えます。とは言え、日本円の価値が相対的に下落していることは最近頻繁に報じられるようになっています。
今日のNHK特集でも中間層の所得が25年前よりも大きく下落していると報じられていました。https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/episode/te/V93X848VQ1/
「中流危機を超えて」と題されたこの特集、第二部は祝日の9月25日に放送予定となっています。 https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/episode/te/GQM97MXGVW/
賃金の相対的下落によって最も影響を受けるのが生活費の中心を占める食品の価格です。今はまだ企業の大変な努力によって大幅なインフレには結びついていませんが、いずれ食品価格が大幅に上昇するリスクは依然として存在します。
今こそ食糧の生産基地である南米パラグアイとの関係強化が必要であると思われます。
「9月25日発」
パラグアイで活発な不動産開発の流れが続いているということをこれまでも何度も書いてきましたが、この動きを報じる記事がアルゼンチンの新聞 Clarín紙に掲載されました。「La nueva tierra prometida: el país vecino que no para de atraer inversiones argentinas」(新たな約束の地:アルゼンチンからの投資を惹きつけ続ける隣国)
Clarín紙の電子版記事は数秒で有料サイトに誘導される仕組みなので、ここでシッカリ読むことは出来ませんが、その内容はパラグアイのUltima Hora紙に紹介されています。
「パラグアイで販売されている新築マンション10戸のうち7戸はアルゼンチン人が購入している。アパート投資のリターンはアルゼンチンでは1%程度だが、パラグアイでは7-9%の高収入が得られることが最大の魅力。マンション建設に出資しているのも35%はアルゼンチン資本。20年以上パラグアイに在住するアルゼンチン人は、パラグアイの通貨の安定性がパラグアイ投資を安全なものと裏付ける理由であるとしている。通貨が安定している背景には政治の安定感が根拠となっており、また最近の投資増加に伴って観光や美食部門への投資も増えており、旅行者にとっても魅力ある訪問先になっている。」
この記事によると2002年のパラグアイ通貨グアラニはGs.6900/US$だったとのこと。ネットで検索しても20年前のレートが見つかりませんが、10年前2012年9月末のレートはGs.4445/US$と表示されます。今日のレートはGs.7043/US$。10年前と比較すると約60%下落したことになりますが、恐らくそれ以前はグアラニの方が強い時期もあったのでしょう。2002年に6900だったというのが事実とすれば、20年前とほぼ同じレートということになります。
一方アルゼンチンペソは2012年9月末のレートがAR$4.6/US$、今日9月24日のレートはAR$145.4/US$なので、下落率は3000%。
2015年10月にブエノスアイレスに行った時の公定レートはAR$8.4/US$、青レートと呼ばれる市中並行レートがAR$16/US$程度で、ドル現金を持って行って道端の交換屋で換金すると、非常にお得でしたが、¥120/US$程度だったので、ペソは裏レートでも8円程度の価値を持っていました。それが今やほぼ同じというレベル。Clarín紙電子版の年間購読料は3000ペソと表示されますから、3000円ということになります。
つまりアルゼンチンは日本より安くて魅力的ということでしょうか?いやいや、物価はペソの下落にリンクしますから、日々物価が上がるという憂き目にあっています。だからアルゼンチンの人達は通貨の安定したパラグアイに持ち金を移動させて、価値が下がらないとされる不動産に投資をする訳です。
昨秋公開されたディズニー映画Encanto(邦題は”ミラベルと魔法だらけの家”)は、住処を追われて新天地に移住した家族が魔法の力を得て立派な家を建てて幸せに暮らす話ですが、通貨の下落とインフレが続くアルゼンチンの人達の目には、パラグアイは正に魔法の新天地という風に映っているようです。
以 上